吃音当事者インタビュー 横江 正輝

当事者インタビュー
吃音とうまく付き合いながら日常生活を行っている当事者さんにフォーカスをあてて職場での体験談や吃音をどのようにカバーしながら仕事をしているかや自身の吃音歴などのお話を伺っていこうと思います。またお話頂いた内容で吃音改善に関わる内容が出てくる場合もありますが科学的医学的根拠はないあくまで個人の考えになります。言語聴覚士監修の吃音知識のコーナーで科学的根拠に基づく吃音の知識を得ることができます。

灰根(吃音ラボ編集部)
本日はよろしくお願いします!
横江正輝
よろしくお願いします!
灰根(吃音ラボ編集部)
まず初めにお名前とご職業を教えてください。
横江正輝
横江正輝と申します。職業は障害者の方々の就労支援を行なっております。
灰根(吃音ラボ編集部)
仕事は具体的にはどのような内容ですか。
横江正輝
障害者就労を受け入れてくださる企業様の開拓ですとか、就職に向けたビジネスマナーの訓練ですとか、コミュニケーションの取り方の練習ですとか、そういったところを訓練で行なっております。
就職されてからもアフターフォローと申しますか、キチンとその職場に定着できるように、随時連絡を取って「何かお困りごとはありませんか」と、お悩み相談を承っております。
灰根(吃音ラボ編集部)
職場では吃音があるということをお伝えしていますか。
横江正輝
はい、毎日のように自分の方から「ちょっと今日は吃音の症状が酷いので配慮をお願いします」とか、そういったことはお伝えしています。
灰根(吃音ラボ編集部)
その配慮というのは具体的にどのような形でお願いしているんですか。
横江正輝
外線ですとか、電話のところにあらかじめ番号を映しておりまして、電話をかけてくる相手の人が分かっていれば自分としては安心してできるので、それ以外の番号がお問い合わせの番号だったり登録のない番号からのものは、極力僕自身は取らないように周りの方が配慮してくださっています。
灰根(吃音ラボ編集部)
僕もそうですが、吃音者の方は電話が苦手な人が多いですよね。横江さんは就職する際に、「吃音があって電話の対応は難しいので配慮が必要」ということは伝えていたんでしょうか。
横江正輝
就職の面接のときに、吃音のことを実は隠したまま就職しました。自分のできないところを言ってしまうと、もしかしてそれが原因で不採用になってしまうんではないかと思い、隠して就職しました。
灰根(吃音ラボ編集部)
それでは仕事を始めてある程度経ってからご自分でカミングアウトしたんですか?
横江正輝
そうですね。だいたい入社して1ヶ月後くらいに、「実は私こういう症状(吃音症)がありまして…。」とお伝えしました。まあ、向こうからしたら、「最初から言ってよ」という感じなんでしょうけど(笑)ちょっとカミングアウトまでは時間を要しましたね。
灰根(吃音ラボ編集部)
そうなんですね。僕の場合も、面接時には吃音であることは伝えずに入社して1年ぐらいにカミングアウトしました。
横江さんは、元々入社したらカミングアウトするつもりでいたのか、入社してお仕事をしていく中で吃音をカミングアウトする必要性を感じてしたのか、どちらですか?
横江正輝
後者の方ですね。これは打ち明けないと周りの人が「ん?」って思うかなと思って。必要性に迫られてカミングアウトしました。
灰根(吃音ラボ編集部)
実際にカミングアウトして、周りの方々の反応はいかがでしたか?
横江正輝
そうですね。「あんまり気にならないよ」という方もいらっしゃいましたし、「あ、確かに言われてみれば流暢に話せないところだったりつっかえるところはあるね、なるほどね、そういうことだったのね」と納得された方もいました。
カミングアウトしたことによる否定的な意見は特に聞かなかったですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
あまり吃音であることを深刻に受け止める人はいらっしゃらなかったんですね。
職場の方々はそもそも「吃音」という症状や言葉の意味を知っていたのでしょうか?
横江正輝
「吃音」という言葉自体は皆さんご存知ではなかったですね。キツオンという言葉を言って初めてその四文字を聞いたというような感じで、「それって何?」ってなりましたね。
灰根(吃音ラボ編集部)
障害者就労支援するような会社の方であっても、まだまだ「吃音」の認知度は低いということなんですね。
横江正輝
そうですね。わかりやすく、「裸の大将の山下清さんのような喋り方が出てきてしまうことがあります」と例えると、「ああ!あんな感じね!」とわかってくださる方もいらっしゃいます。
灰根(吃音ラボ編集部)
裸の大将の山下清さんの喋り方は知っていても、あの喋り方が「吃音」という障害だということは知らないということですね。
吃音であることをカミングアウトすることによって、何か心理的な面に変化はありましたか?
横江正輝
心理的にはスッキリはしましたが……。
やはり仕事柄、電話でのやりとりは必須なので……。自分としては100%の力を発揮して職場で活躍しようという気持ちがあるんですが、吃音の症状があるせいで持てる力の70%とか60%とか……(しか発揮できている実感がない)。
もどかしい気持ちはやっぱりありますね。「もっとできるのに!」という。
灰根(吃音ラボ編集部)
そうですよね。吃音じゃない方だったら、何度も回数を重ねて経験を積むことで電話応対なども上手くなると思いますが、吃音者の場合、回数を重ねたからといって流暢に喋れるようになるとは限らないですからね。
僕も場合もそうだったので、もどかしい気持ちはよくわかります。
現在の職業選択に、吃音の症状は何か関係していますか?
横江正輝
元々中学生くらいのときに、少し鬱病の気といいますか、人よりもだいぶナイーブな面がありまして。
なので、今のこの世の中、鬱病を発症して退職したり休職したりする方が大勢いらっしゃるのを見て、当事者の視点から何か支援が上手くできないものかなと考え、今の職(障害者就労支援)を選びました。
灰根(吃音ラボ編集部)
素晴らしいお考えですね。
それでは、吃音というよりは、中学生時代に鬱病のような状態になった経験が元となって、同じように困っていたり悩んでいたりする方の力に慣れたらなという思いから現在のご職業を選ばれたんですね。
聞くのは失礼かもしれませんが、鬱病のような状態になったことに、吃音は関係していますか?
横江正輝
小学校くらいのときから、固有名詞とか人の名前を呼ぶときにちょっとつっかえたりする特徴がある、という自覚がありました。それが元で、人とコミュニケーションを取るのがちょっと億劫になったり、あえて友達のグループに入らないで1人で過ごしていたり、そういうところでなんていうんですかね……いじめの標的じゃないですけども、そういったところで不登校であったり鬱のコースを辿っていったのかなというのはありますね。
灰根(吃音ラボ編集部)
小学生の子だとそういうのありますよね。人と少しでも違うところを見つけると、それを標的にするというか。
子どもの方がそういう違いに残酷で敏感だったりする印象があります。
職場で配慮はいただいているというお話はありましたが、十分な配慮だと感じていますか?
横江正輝
私としては、今のままですごく十分な配慮はしてくださってると思うんですけど、同僚とやりとりしているときなかなか言葉が出てこないときがありまして。
向こうとしてはちょっと気を使って「横江さんそんな緊張しなくていいよ〜!」とかですね、こっちが言いたいことを先回しして「もしかしてこれ言おうとしてる?」とかですね、助け舟を出してくださるんですけども、逆に「あっ……それ自分今日もスムーズに言えなかった」と思ってしまったり。
なので、配慮は十分でしてくださってると思うのですが、100%ではないのが実情ですかね……。
灰根(吃音ラボ編集部)
難しいですよね。その日によって症状の程度は変わりますし。
できるだけ自分でやりたいという思いもあったりするし、そうは言っても症状が重いときは上手くできなくなってしまったり。
横江さんは、いつから吃音の症状を自覚しましたか?
横江正輝
やはり小学校時代からですね。たまに流暢に喋れないときがあるかなって自覚はありましたね。それから、社会人になったときに、学生時代とは違ってお客様と電話のやりとりをして「あ、自分って電話だとつっかえるのが多くなるんだ」というのが初めてわかったような感じですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
こうやって喋っている感じでは吃音という感じがほとんどわからないんですが、やはり特定のシチュエーションになると症状が出やすくなるんですか?
横江正輝
そうですね、電話で固有名詞を言うのがやっぱり難しいですね。
電話の取り次ぎで会社名を言うときですとか、先方からお電話かけてくださった方のお名前を言うときに「……。」と時間が止まってしまうときがありますね。
灰根(吃音ラボ編集部)
固有名詞って言い換えができないから難しいですよね。すごくよくわかります。
吃音の症状を自覚して、病院やことばの教室に行かれたことはありますか?
横江正輝
先ほど申し上げたとおり、中学生時代に一度鬱の症状があって、それに付随して「実は吃音という症状も自覚があるんですが」ということで、精神科の先生には何回か相談したことはあります。
精神安定剤といいますか、リラックスできるような、緊張を解くような薬を処方されるだけで、対症療法そのまんまですね。
元となってる幹の部分はやっぱりどうしても変えるのは難しいというのはやっぱりありますね。
灰根(吃音ラボ編集部)
吃音そのものをどうしようという治療は受けられなかったということですね。
ちなみに、インタビュー前にお伺いしたお話で、「ヘヴィメタルバンドでキーボーディストとしてメジャーデビューしてCD出した」という横江さんのエピソードがあまりに衝撃的だったので、それについてもお聞きしてよろしいですか?(笑)
吃音者の職業選択という意味でもそうですが、単純に僕が音楽好きで興味があって(笑)
横江正輝
はい(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
どういった経緯でバンドを組んでメジャーデビューするまでに至ったのでしょうか?
横江正輝
私は小学生くらいの頃からオタクなところがありまして(笑)
音楽以外にも、本であったり、ゲームだったり、漫画だったり、野球だったり。
好きなことに関してはいくらでも脳に知識とか技術が入るようなところがあって(笑)
高校ぐらいのときに、クラスメイトにバンドやっている子たちがいて、誘われたんですよね。
「横江そんなに音楽好きだった一緒にバンドやろうぜ!」って。
でも、メンバーが、ギター、ボーカル、ベース、ドラムとみんな埋まってるんですね。
「おや、キーボードぐらいしかやるのないんじゃないか」ということで、「じゃあキーボードやるか」ですね(笑)
姉がいるんですけども、姉が幼稚園の先生をやっておりまして、姉もちっちゃいときからピアノやっていたので、すごく身近な楽器ではあったんですよね。
なので、高校2、3年くらいからですかね、人差し指一本から始めて(笑)
僕元々B‘zが大好きで、小学校時代に習った楽譜の読み方がまだ残っていて、なので楽譜だけ買ってきて、あのオタマジャクシとにらめっこしながら、「ああ、なるほどこう弾くのか」みたいな感じで。
B’zの「ALONE」という曲を一番最初に弾けるようにしましたね(笑)
そこから、やっぱりB‘zが大好きなので、稲葉さん松本さんが好きな音楽、ルーツを辿っていったんですよね。
となるとやっぱり、洋楽のハードロックやヘヴィメタルの方にいって、「あ〜なんかこっちの音楽の方がよっぽどかっこいいじゃん!」と思って(笑)
そこから、地元の仙台のシーンで、高校生くらいのときからクラスメイトと始めたバンドでどんどんライブに出演していったんですけど、大学生くらいのときから「もっといろんな年齢の人達とバンド組みたい」と思って、社会人の方だったり、自分より年下の高校生だったり、いろんな人とバンドを組んで。
一時期本当にもう5バンドくらいかけもちしてやっていましたね!
やっぱりキーボーディストってあまりいないので。
そこから、いろんな人とライブハウスで対バン・共演していく中で、東京のインディーズのヘヴイメタルのバンドの代表の人と知り合いになり、「横江くんちょっと東京来ちゃいなよ!」 って簡単に誘われて(笑)
そのとき僕もう、社会人で福祉の仕事をすでにやっていたので、「どうすっかな〜」と思ったんですけど、「まあまだ20代だし挑戦してみっかー!」っていってですね、ピャーッっとキーボードひとつで東京に引っ越して(笑)
僕がCD出すそのヘヴィメタルバンドは、元々ベテランのバンドで、僕が10代くらいのときからデビューしていたんですよね。
そこに、キーボーディストとして加入して、今に至るというところです!(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
すごいおもしろい話!(笑)思わずインタビューに関係なく楽しんじゃいました(笑)
そうやってCD出すことがあるんですね。やっぱキーボードって珍しいんですかね?
横江正輝
そうですね〜。みんな、「ボーカルやりたい」、「ギターやりたい」っていう人達ばっかりで。
キーボーディストってなぜか知らないですけど、「昔からピアノやっていた人じゃないと務まんないじゃないか」という先入観があったりして、ちょっと敬遠される楽器ではあるんですよね。
でも、僕みたいに独学で指一本からで、情熱というか、「絶対B‘zの曲弾きたいんだ!」っていう(笑)


「高校生から、指一本からキーボードを始めてもここまで弾けるようになるんだぞ!」※本人談

灰根(吃音ラボ編集部)
それであそこまで弾けるようになるんですね〜!!!
横江正輝
いえいえいえ、だいぶ偏ったプレーヤーではありますけどね(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
この話しているときの横江さん、すごい良いお顔されていますよね!
横江正輝
いやいやとんでもないです(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
ちなみに、なぜこの吃音ラボのインタビューに協力しようと思っていただけたのですか?
横江正輝
吃音ってまだまだ世間では認知度は低いですし、当事者の僕たちが実際にこういう(吃音の)症状で悩んでいる。
その上で、「こういう配慮さえしていただければ、吃音という不便なところはあるけれども、活躍できるよ」とか、「代わりにこういうことは得意ですよ」という考え方。
ちゃんと「吃音だから僕はダメだ、私はダメだ」とかじゃなくて、「吃音はあるけども、自分はなんとかこういうところでがんばっていきますよ」というところを発信したいなと思って、この度インタビューを受けさせていただきました!
灰根(吃音ラボ編集部)
横江さんのお気持ち、とてもありがたいです。
僕も吃音について発信していこうという思いでやっているので。
”顔出し”を条件にインタビュー依頼をしているので、どうしても「“顔出し”はちょっとねえ…。」という方が多くて難しいところがあるんですが、こうやって発信したいという思いでご協力いただけるのは本当にありがたいです。
横江正輝
いえいえいえ。
灰根(吃音ラボ編集部)
吃音について発信というところで、質問が少し戻ってしまうのですが、職場以外のところでは吃音についてカミングアウトしていますか?例えば友達やバンドのメンバーなど。
横江正輝
はい!もうSNSで毎日のように発信しています(笑)
僕はもう「吃音」とか、自分の暗い過去ですね、「鬱病」だったとか、「不登校」だったとか、「引きこもり」だったとか、その他もろもろ、別に僕は全然言ってもOKな人間なので。
むしろ、みんなそういう「病気の話」とか、「お金の話」とかしたがらないじゃないですか。
なんか「こういう話題タブーじゃないか」って。
でも、僕はそういうタブーを取っ払って、「何でも話していいんじゃん!」っていうような空気感を自分自身から発信していこうかな、って思っている次第なんですね(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
すごい考え方ですね!
確かに、周りの方は触れちゃいけないことだと思ってタブーへ触れないようにすると、そのタブーへの気遣いが逆に円滑なコミュニーケーションを阻害することもあるのかなって思います。
自らそのタブーだと思われている内容に触れることで、相手としても自分がタブーについてどう考えているかがわかってもらえて安心してコミュニケーションを取れることに繋がるのかな、と。
最後に何か見ている方にメッセージがあればお願いします!
横江正輝
確かに吃音というのは不便で、人との会話でハンディキャップを感じることはたくさんあると思いますが、そこをなんとか「吃音でもいいじゃん!」、「吃音だけど、自分はこういういいとこあるよ!」って、そういうところに目を向ける。
確かに毎日色々辛いことはたくさんあります。それでも、当事者のみなさん!楽しく生きていきましょう!!!
灰根(吃音ラボ編集部)
本日はありがとうございました!
横江正輝
ありがとうございました!
撮影後記
横江さんは実は仙台にお住まいで、なんとこのインタビューを受けるためにわざわざ遠いところから東京までお越しくださいました!
本当にありがたい限りです。
素敵な笑顔からは想像できませんが、あっけらかんと話してくれた小・中学生時代は壮絶なものだったのかと思います。
それでも、そんな時代を乗り越え、ピアノの経験もないのに高校でキーボードを始め、そこからヘヴィメタルバンドでメジャーデビューするという、信じられないような話をしてくれた横江さん。誘われたからってキーボードひとつで東京に引越ししたり、インタビューに協力するために仙台から来てくれたり、年200冊のペースで本を読んだり。
むしろ僕の目には横江さんはこの上なくバイタリティに溢れた人に映りました。インタビューとても楽しかったです。横江さんの今後ますますのご活躍を願っています。

取材・撮影・編集=灰根