吃音当事者インタビュー 安藤

当事者インタビュー
吃音とうまく付き合いながら日常生活を行っている当事者さんにフォーカスをあてて職場での体験談や吃音をどのようにカバーしながら仕事をしているかや自身の吃音歴などのお話を伺っていこうと思います。またお話頂いた内容で吃音改善に関わる内容が出てくる場合もありますが科学的医学的根拠はないあくまで個人の考えになります。言語聴覚士監修の吃音知識のコーナーで科学的根拠に基づく吃音の知識を得ることができます。

灰根(吃音ラボ編集部)
本日はよろしくお願いします!
安藤
よろしくお願いします!
灰根(吃音ラボ編集部)
まず初めにお名前とご職業を教えてください。
安藤
名前は安藤順一です。今は午前中だけマンション関係のアルバイトをやっています。
灰根(吃音ラボ編集部)
具体的にはどのようなことをされていたんですか?
安藤
管理関係ですね。管理会社。受付とか。いわゆる、マンションに来た誰かが窓口に行くとそこに人がいると思います。あんな感じですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
なるほど!以前はどんなお仕事をされていたんですか?
安藤
以前は郵便局にいました。
灰根(吃音ラボ編集部)
郵便局ですか!なぜ郵便局で働こうと思ったのでしょうか?
安藤
東京へ出て来て、元々は教師になりたかったんですよね。
でも教師は吃音だしね、どう考えても無理なんで。じゃあ何やろうかなって思って、たまたま田舎にいるときに郵便局のバイトをやっていたんですよ。その関係で、じゃあ郵便局のバイトだったら、入ったときに「なんだこんな仕事か」ってことがないじゃないですか。すでに経験しているからね。だからまあいいかなって。そういう関係で入りました。
灰根(吃音ラボ編集部)
郵便局で働いていた際に、吃音が障害になるようなことだったり、困るようなことはありましたか。
安藤
郵便局はね、配達ですから。集配。ですから、そんなになかったですね。一言、二言言えばいいだけでしたから。
灰根(吃音ラボ編集部)
あまり多量なコミュニケーションは必要としなかったと。
元々は教師になりたかったということは、吃音であることが職業選択に影響したのでしょうか。
安藤
そりゃあもちろんですね。はい。
灰根(吃音ラボ編集部)
吃音を自覚したのはいつ頃ですか?
安藤
小学校の頃にお袋に言われたんですね。「こんなことじゃ仕事できないよ」って。そのときですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
その後に病院や言葉の教室など、吃音を診てもらうことはありましたか?
安藤
いや、田舎ですから、特別そういうところ行くってことは……そもそも(そういう施設が)ないですからね。ないです。
灰根(吃音ラボ編集部)
どもることが吃音っていう名前だと知ったのはいつですか?
安藤
新聞にね、書いてあったんですよ。新聞とか漫画の本とか色々ね。
「吃音が治る」とか。当時いちばん多かったのは花沢研究所ですね。
広告が載っていたんで。「どもりは必ず治るとか」ってね。
それで、「ああそっかどもりなんだ、どもりって言うんだ」と。
その辺ですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
僕もネットなどで「どもりが治る」というようなふれこみを見たことはあります。
安藤さんは、何か治療や訓練をすることで吃音が改善するようなことはありましたか?
安藤
最初は何をやっていいかわからないわけじゃないですか。
だから、花沢研究所の本を買ってそれをやりましたね。だいたい発声訓練かな?それをやっていましたね。
灰根(吃音ラボ編集部)
その本を買って訓練することで吃音は改善しましたか?
安藤
いや、しませんね。
灰根(吃音ラボ編集部)
その方法では改善はしなかったと。
安藤
ですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
先ほどインタビュー前に伺ったお話のところで、小学生の頃の安藤さんは内気で人見知りだったと。
そういった安藤さんから、今みたいな安藤さんに変わったきっかけは何かあったんでしょうか?
安藤
きっかけはね……やはり東京に出て来たことですね。私は北海道の佐呂間っていう田舎の出身ですから、いずれは東京に来ようと思ったいたんで。
それで東京へ出て来て、多くの人の中で揉まれて気合い入れたっちゅうか(笑)
当時バイトやっていたときにね、ある人に「お前そんなことじゃ東京に行ったらばかにされるぞ」って言われて。
そういうのもあったかもしれませんね。とにかくまずは気合いで(笑)それで多少変わりましたね。
灰根(吃音ラボ編集部)
それで実際に東京に行ってそこまで自分を変えられるものなんですか?
安藤
環境を変えるとね、人間変わりますね。急に大勢の中に入っちゃったからね。それに夢もあるじゃないですか。だてに東京へわざわざ出たわけじゃないんで。
灰根(吃音ラボ編集部)
安藤さんのその当時の夢というのはなんだったんですか?
安藤
夢か…そうねえ。なんていうのかな、昔流で言うと「一旗揚げる」っていうかね。とにかく成功しようと思ったね。出世してね、お金もたくさん儲けて。そういうのはありましたね。
灰根(吃音ラボ編集部)
そういった夢があって、東京でやっていくには今までの自分から変わる必要性があったと。
安藤
そうですね。俗に言う「ギアを上げる」ということですよね。気合いを入れるというか。
灰根(吃音ラボ編集部)
僕の想像でなんですが、今までの自分の性格や考え方を変えるのって相当難しいことだと思うんですよ。
それを人に言われて自分で意気込んだだけで変えられるものなのかなと思うんですが、安藤さんは人と話す場を設けたり、何か具体的に行動を変えるなどしたんでしょうか?
安藤
郵便局に入ったのが良かったですよね。
新宿だけで当時600人くらいいたのかな。で、ワンフロアに100人くらいいて。仕事中に結構話ができるんですよ。
雑談ね。そういうので色んな人と話せたのが良かったかな。
灰根(吃音ラボ編集部)
その環境があって吃音も改善していったんですか?
安藤
いや改善はね、あまりしなかったですけども。
性格的ね、色んな人と話せた。例えばね、小さな会社だと人に気を使うじゃないですか。「この人とおかしくなると周りの雰囲気が悪くなるから考えなきゃいけない」とか。
でも、100人くらいいるとね、もう気に入らないやつは気に入らないんですよ(笑)
気にいるやつは気にいるやつってね、できちゃうんですよ。だからもう言いたいこと言えるしね。嫌な人は口を利かなきゃいいんで。
そういった意味じゃあね、人間関係を気にしなかったのがよかったですよ。
灰根(吃音ラボ編集部)
無理して仲良くする必要がなかったと。
安藤
気を使わなくてよかったですね。これがちっちゃな会社だとそうもいかないじゃないですか。この人とうまくいかなくてもこっちとうまくいけばいいやってそんな感じですよね。
灰根(吃音ラボ編集部)
安藤さんと僕は日暮里例会でお会いしましたが、言友会に参加したきっかけはなんだったんでしょうか。
安藤
言友会は田舎の新聞に載っていたんですよ。
ですから、東京へ出たら入ろうと思っていました。で、一旦入ったんですよね。でも当時の言友会は「吃音は治らない、治さない」という時代だったんですよ。
だから、これじゃダメだと思って即抜けて。
それで花沢研究所、田舎の新聞と漫画に出ていたやつね。本ではダメだったけど、実際に先生に教えてもらえばなんとかなるんじゃないかと思って行ったら、やっぱり基本的に発声訓練だったんですよ。
これはダメだと思って。2回くらい行ったかな?当時高かったんですよ。給料が毎月3万円くらいで2万円くらい取られたと思うんだどね。たっかいんだよああいうのはね(笑)とりあえずこれは辞めようと思って。
ボケーとテレビを見ていたら、ヨガがやっていたんだよね。当時ヨガブームでね。ヨガは「心と身体をコントロールできる」っていうキャッチフレーズがあってね。
「心と身体がコントロールできるんだったら、吃音も治せるな」を思ってね。でヨガに入ったんですよね。それでかなり(吃音が)良くなりましたね。
灰根(吃音ラボ編集部)
ヨガですか、へぇ〜おもしろいですね!
安藤
ほとんどって言っていいほど(吃音が)良くなりました。ただひとつだけね、元々人前で話すのは苦手だっだんですけど、それだけはダメだったね。だいたい話せるようになったんだけどね。
灰根(吃音ラボ編集部)
僕が日暮里例会でお会いしたときの安藤さんの印象は真逆で、人前で話すのが得意そうな人だと思っていたんですよ。
同じ吃音をもっている人でもこれだけハキハキ人前で堂々と意見を主張できるのは凄いなと思っていたので、元々の安藤さんは人と話すのが苦手で引っ込み思案だったというのを聞いて本当に驚きました。
僕も大勢の前で話すのは苦手なんですが、僕たちみたいに元々は大勢の前で話すのが苦手な人が安藤さんみたいに喋れるようになるにはどうしたらいいと思いますか?
安藤
うーん(笑)やっぱり、話すテクニックを身につけることですね。プラス場数。この2点ですね。私はずっと話し方教室に行っていましたから。
灰根(吃音ラボ編集部)
それは発声練習とかをするんですか?
安藤
発声練習も多少やりますけど、人前で話すためには人前で話せなければダメじゃないですか。そういうことですよね。そういう訓練をしないとね。
灰根(吃音ラボ編集部)
話す訓練と、とにかく人前で話すという場数を踏んで、その結果少しずつ話せるようになったと。
安藤
場数と話すテクニックね。この2つね。
灰根(吃音ラボ編集部)
話すテクニックというのは具体的に今僕らが意識してできるようなのものはあるんでしょうか?
安藤
今ですか?(笑)ネットでも結構言っているんですけど、逆腹式呼吸というのがあるんですよ。あれがね、かなり(吃音に)効く。
あともうひとつはね、ちょっとややこしいんですけども。今言っていいですか?ひとつは呼吸法ね。
あとはね、こう(※動画参照)息が上がるじゃないですか。それで、声帯が震えて…ここまでは音ね。
で、口の中で声にする。声が出るまでの通り道を気道とか声道と言うんですよね。このラインがね、狭いんですよ。
だからこう広げてやればいいってことですよね。そのひとつが喉ですね。これが(吃音者の方は)クッと上がっちゃうんですよね。
ラリンクスって言うんですよ。ハイラリンクスやディープラリンクスと専門家は言いますけど。
これがちょっと入っちゃう、または上がっちゃう。だからよく吃音の人って、こう(喉に力が入って顔をあげる)なるじゃないですか。
あれ、苦しいんですよ。
クッと上がっちゃって苦しいからこんななっちゃう。これをね、下げてやる。要するに、下げるというかこういう感じで、広げる感じかな。これが要するにクッなっている。人によってはハイに、高いって人もいれば、深いって人もいる。単に上がっているという人もいますしね。
表現は、下げるっていう人もいるし、こういう感じね(笑)広げるというか。ここのラインね。それをやるとね、これがこうなるん(気道が広がる)ですよね。
そうするとスっと声が出る。それがこの状態(気道が狭まっている)でやらすとね、いわゆる詰り、「ンン!ンン!」っていくらやってもつっかかるんですよね。
広げた状態のままで合わすと、ちょっと変な風になっちゃうので。
広げてから(閉じるように)普通に話せればいいと。これがテクニックね。逆腹式呼吸と、このテクニック。
灰根(吃音ラボ編集部)
このテクニックを意識しながら、場数を踏むことによって症状が良くなったと。
安藤
そうですね。要するに力が抜けたってことですね。ここら辺の(喉のあたり)。クッていうのが無くなったということですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
吃音症状が出ているときって無意識にクッて力が入っていますよね。力を入れようとしているわけではないけど、いつの間にか入っているというか。
逆腹式呼吸というのも、こないだ日暮里例会で初めて聞きました。
安藤
逆腹式というのはね、ここ(気道)の力が抜けるんですよ。腹式はね、力が抜けないんですよ。
1970年代にね、「腹式呼吸で吃音が治る」というのが一時期あったんですよ。ダーッと広まって。結局ダメだったんだよ。
専門家に聞いたらね、「あれは意外と力が入るんだよね」って(笑)(一応腹式呼吸でも)抜けるには抜けるんですよ。その割にはあまり抜けないってことね。
灰根(吃音ラボ編集部)
一般的に胸式呼吸と腹式呼吸が知られていると思いますが、それに加え逆腹式呼吸があるということですね。
安藤
胸式腹式……まあ色々ありますよ。呼吸法だけで20種類くらいありますけどね。
灰根(吃音ラボ編集部)
そんなにあるんですか!?胸式と腹式くらいしか聞いたことなかったので(笑)
安藤
いやあ、もう20でも30でもありますよ。
灰根(吃音ラボ編集部)
そんなに奥が深いんですね、呼吸法というのは。
安藤
深いです。だから吃音には、逆腹式。あれが一番。まあここ(気道の力)が抜けちゃえばいいわけですからね。それにはそれが一番。
灰根(吃音ラボ編集部)
へえ〜おもしろいなあ。呼吸法がそこまで奥が深いとは。
昔の人が言っていた「腹式呼吸が吃音に良い」というのが今だにネットなどに載っていて、未だにやっている人がいると思うんですよ。
僕も初めて吃音について調べた際に、そういった情報を見て腹式呼吸を意識してみたんですよね。
でもあまり効果は実感できなくて。昔の情報が今でも当たり前のように載っていたりするんですね。
安藤
おそらくね、当時だいたいの人が(腹式呼吸を)やったと思います。私もやったけど。必死にやりましたよ!必死にやった(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
それは必死にやりますよね(笑)
昔の言友会は「吃音は治さない」という考え方だったとおっしゃっていましたが、今の言友会はどういう考えのもと活動しているのですか?
場所によって違いがあるとは思うのですが。
安藤
基本的にはね……どういう風に言えば良いのかな。
まあ互助組織ですよ。基本的には。「お互い助け合ってがんばりましょう」と。そういう組織です。
根本的にはね。だから吃音を治さないでやっていこうという人もいれば、治そうって人もいるし、ただ単に友達を作りたいって人もいるし。
それは自由ですね。基本的に吃音者同士の「皆でがんばってやろうね!」という組織ですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
なるほど。じゃあ組織の中で、「必ずこういう考え方をしなさい」みたいなことを強制されているわけではないんですね。
安藤
うん、昔はあったんですよ。で、分裂しちゃったんだよね(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
しっかりとは知らないんですけど、色々あったということは聞いたことがあります。
安藤
それで分裂しちゃったんですけどね。色んな理由はあるんですけどね。ひとつの考えでまとめたい人がいるんですよ。上の方に(笑)
でも今は、あまりそういう(考えを)まとめるとだいたい分裂しちゃうんですよ。
だから色んな考えの人が(言友会)でやっていると思っていいんじゃないですかね。人それぞれで批判はしないしね。「おまえその考え方ダメだよ」ってのはまあ酒でも飲めばね、ありますけどね(笑)通常はね、あんまりそういうことは言わないように(している)。
灰根(吃音ラボ編集部)
僕も言友会に参加する前は、吃音に対する捉え方や考え方を強制されるのかなって不安もあったんですけど、いざ参加してみたら皆さん優しくてフレンドリーで。考え方を強制されるようなことももちろんなく。一緒になって応援してくれる仲間のような感じで。参加して良かったなと。
安藤
まあ中にはね、お節介な人もいますけどね(笑)そりゃあしょうがないです!
灰根(吃音ラボ編集部)
安藤さんは、吃音について広めていくべきだと思いますか?
安藤
私はあんまり広めない方がいいかなと思うんですよ。
障害者枠ってできましたよね。前からあるんですけどね。あんまり(吃音について)広げちゃうとね、「だったら障害者枠で入れよ」ってなっちゃうんじゃないかとちょっと危惧しています。
以前は吃音の人を見ると一般的には「吃音くらい治せよ」って感じだったんですよね。だけど、あんまりその「(吃音は)障害者だ」っていう風になっちゃうとね。新聞でも出ましたけど。「だったら障害者枠で働けよ」って言われるんじゃないかと、そっちをちょっと危惧しています。
そういう点であまり吃音を広めるのはどうかなって…。だから「吃音じゃないの?」って言われても「いや違います!」って言った方がいいんじゃないかなと(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
確かに雇用の面ではそういうリスクがあるかもしれませんね…。
安藤
雇用ですね。別に吃音って言ってもね、家庭でどもる分には別に構わないわけで。問題は生活じゃないですか。その点であまり広めるのはどうかなと思いますね。
灰根(吃音ラボ編集部)
吃音があっても他の人変わらず一般枠で活躍されている人ってたくさんいるじゃないですか。詳しく知っているわけではないですけど、吃音がありながら総理大臣になった人までいますよね。
総理大臣になるのってかなりすごいじゃないですか。だからあまりにも「吃音がハンデ」って言ってその人の可能性を狭めてしまうのは確かに良くないですよね。
安藤
現にね、厚生労働省の日詰さん…日詰さんかな?あの人のところにも問い合わせがあるそうですからね。「吃音を面接で見分ける方法があったら教えてくれ」って
灰根(吃音ラボ編集部)
要するに採用する側として「吃音者」を弾きたくて見分け方を知りたがっていたと。
安藤
そうです。要するに今(吃音が)脳の障害って言っているじゃないですか。単なる吃音ならいいんですけど、脳の障害って言っているから。特に人事関連の人は結構気を使っていると思います今。もう新聞にも出ちゃったしね。で、採用しちゃうとね、結局人事の責任になるわけじゃないですか。だからその点でどうなのかなあって私は思っています。
灰根(吃音ラボ編集部)
シビアですね…。確かに人事の人は表向きは「吃音があるから採用しない」とは言えないと思いますけど、やはり会社の人間として優秀でコミュニケーションに問題がなく活躍できる人材を採用したいと思っているはずですからね。
安藤
結局ね、1人の人を一人前にするのに企業は相当なお金を使うんですよね。だから、なるたけ将来役に立つ人を採用したいというのは企業側としては当然のことですよね。
ですから先ほどに戻りますけど、あまり(吃音について)強調するのはどうかなと、そう思うんですよ。
灰根(吃音ラボ編集部)
色んな考え方を伺ってきましたけど、こういった目線での考え方を聞いたのは初めてでした。広めることによって吃音者の状況がより悪くなってしまう可能性も考えなければならないと。
安藤
昔はもう「吃音ぐらい治せよ」って、”その程度”だったんですよ。
灰根(吃音ラボ編集部)
ある意味そちらの方が採用されやすかったということですね。良い意味でも悪い意味でも吃音であることが相手に深刻に捉えられなかったと。
安藤
そうです。まあ今でもだいたいの人が「吃音ぐらい治せよ」って考えですけどね。ただ企業の人事の人はね、ああやって新聞にデカデカと出ちゃうとね、一応頭の中に入っていますよね。
灰根(吃音ラボ編集部)
もう人事関係の人だと発達障害だとか知っている方は結構多くなってきていますよね。
安藤
今は昔と違って、企業はコミュニケーション能力をすごい重視していますから。
私の息子なんかでもね、普通に喋っているときと、たまに営業絡みの電話が掛かってくるんですけども、もう話言葉がまったく違うんですよね。
だからああいうの見ているとね、これはちょっと吃音の人はキツイなって思うね。私の息子は営業やっているんですけどね。ちょっとこれキツイなって思いますもん、私も。
灰根(吃音ラボ編集部)
息子さんは吃音の症状はあるんですか?
安藤
あのね、吃音にちょっとなったんですよね。私が治しました。
灰根(吃音ラボ編集部)
治ったんですね!
安藤
うん。(吃音に)なるかもしれないということはわかっていたんですよ。
だから、「(吃音に)なったらこうしよう」というのはあらかじめ決めていましたから。
あれ(吃音に)なった瞬間なら割と簡単に治るんですよ。まあ私の考えですけどね。それが(吃音の期間が)長くなっちゃうと定着しちゃうんで。
それで(吃音が)すぐ良くなったんですけど。まあいずれにしても、仕事上の言葉はすごいと思いましたね。スキルが全然。
灰根(吃音ラボ編集部)
確かにびっくりしますよね!普段の日常での話の仕方と、仕事のときの改まった話し方って全然違いますし。
先ほどインタビュー前に少し聞いた話なのですが、安藤さんは吃音に関するセミナーをやっているとのことですが、なぜセミナーを開こうと思ったのか教えてください。
安藤
当初からね、いずれ吃音を治す側にまわろうと決めていたんですよ。まあそういうことですね簡単に言うと(笑)(自分の)吃音を治したから、再び言友会に入り直して今やっていると。
灰根(吃音ラボ編集部)
治す側にまわろうと思っていたんですね。どのくらいの頻度でやられているんですか?
安藤
1ヶ月に1回です。内容は先ほど話したとおりです(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
参加したかったらどこから応募すればいいんですか?
安藤
普通に東京言友会のホームページに載っていますから。
灰根(吃音ラボ編集部)
なるほど。じゃあ詳しくはそちらを見ていただいてと(笑)
安藤
場所も時間もあります(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
わかりました!
でも治す側にまわるというのがすごいですよね。なかなか自分の症状に手一杯で他人の症状にまで気がまわらないものなんじゃないかなと思うんですが。
安藤
いやぁあのねえ、子どもの頃に相当(吃音に)苦労しましたからねえ。うん。
灰根(吃音ラボ編集部)
じゃあ同じ吃音者の人の悩みや苦しみがわかってこういう活動を。
安藤
そうですね。でもね、今になってやってみると意外と治したい人が少ないなと思って「アレ?」と思ってね(笑)ちょっとびっくりしてた(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
いや〜わからないですけど、おそらく治したい人はめちゃくちゃいると思うんですけど、改善しないと思い込んでいる人がたくさんいるんだと思うんですよ!
それこそさっき僕が言った腹式呼吸みたいなのをネットで見て試してみたものの改善はしなくて、「なんだこんなのやっても吃音は治らないじゃないか」っていう落胆があって、もうやろうと思えなくなってしまっているんじゃないですかね。
安藤
でしょうね!もう最初から(諦めている)。そう思います。
灰根(吃音ラボ編集部)
僕も改善できるもんなら治したいとは思っていますし。
安藤
そう、そうなんですよね。「治るんだったら治したい」って人はたくさんいるんですよね。そこなんですよね。
灰根(吃音ラボ編集部)
ああ!「意地でも治したい」って思っている人はそこまでいないと。
安藤
「どうしても治したい」って人は、意外と少ないんだなあって感想ね。それはちょっと私の当て外れ(笑)「どうしても」って人ね!「確実に治るんだったら治したい」「みんなが治っているんだったらやろうかな」そういう考えね。私はもうとにかく人のことはどうでもいい。人が治らないと思っても自分はやれるかもしれない、そういう考えですからね。
灰根(吃音ラボ編集部)
普通の人だったら治らないとか怪しいとか思って踏みとどまるようなものでも、とにかく片っ端からやってみてもしかしたら自分に合った方法があるかもしれないって思いで、とりあえずやってみると。そういうの大事ですね。やっぱり確実に治るって思えてからやろうとしていたのでは…。
安藤
今そういう人多いんですよ。みんが治ったのを確かめてから、じゃあ行こうか!って(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
それみんなが思っていたら、みんなしないですよね(笑)どっかで誰かが実行してやってみないことには。
安藤
で、改善した人がいても、「そんな筈はない!」「改善するわけないだろ!」ってこう(笑)困ったもんだ本当に(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
ちょっとは勇気出して試してみるっていうのも必要ですね!
安藤
まあとりあえずやればいいじゃんて(笑)本当そういう感じね。裏切られるのが嫌なんでしょうね。でもね、治らなくて元々だと思えばいいと思うんですけどね。
灰根(吃音ラボ編集部)
これで改善すればラッキーくらいの軽い気持ちでやってみればいいと。
安藤
まあ色んな人がいますよね。「治る治らないに限らず治し続けていくものだ」って人もいれば、「治らないんだからそれはちょっとこっちへ置いておいて別なことをやろうよ」って人もいるし。まあそれは色々ですけどね。様々。
灰根(吃音ラボ編集部)
吃音について指摘されたことはありますか?
安藤
指摘はないです。
お袋にはされましたけどね。中学のときはほとんど読めない頃があったんですよ。
まあでも一応吃音といっても、まったく声が出ないことはないんで。なんとかなんとかやっていたんですけどね。
一時ね、一回だけ本当に出ないときがあって。(音読を読み終えるまで)もうちょっとなんですよ(笑)あと何行か。どうしても出なくなっちゃってもうしょうがないから、「あ・い・う・え・お」ってこんな感じでやったんですよ。
そのときはみんなに笑われましたけどね。
でもね、私はばかにされたことはないんですよ。うん、なぜか。そういうことはなかったですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
安藤さんが怖かったんじゃないですか?(笑)
安藤
かもしれませんね(笑)ただ、目線でわかるじゃないですか。軽蔑するような目線。
それはもうすごい感じましたけどね。どんなときでもどもったときはね。面と向かってばかにされたりすることはなかったですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
安藤さんの例は、珍しいですね!
安藤
私は郵便局に入ったときもね、たまにみんなの前で話す機会ってあるんですよね。まあかなりやっぱどもりますよ。でもね、ばかにされることはなかった。ていうかね、ずっと年度を経て最近昔の人に会うんですけど、「安藤変わったな。昔は怖くて話しかけられなかった」と言われてね(笑)あ、そうなのかなあと思って。
灰根(吃音ラボ編集部)
やっぱり怖いイメージがあったんですよ(笑)
安藤
うん、当時は仲間を何人か引き連れてあっちこっちまわっていましたね(笑)歌舞伎町とか。
灰根(吃音ラボ編集部)
結構遊び人だったんですか?(笑)
安藤
遊び人!私が歌舞伎町通るとみんなこう道を避けていく(笑)
灰根(吃音ラボ編集部)
ソッチ系の人なんですか?(笑)
安藤
ソッチ系(笑)まあ嫌いじゃないですけどね(笑)
まあ見た目はそんな感じかなあ。あのね昔はね、わからないかな、七三のRay-Banのグラスってあるんですよ。このぐらいの角度があるんだけどね、あれかけてたからね。
で、上着もこんな風に着てなくて肩にかける感じでね。それで何人か引き連れてこうやって歩いていたから(笑)
それぐらいだから東京へ来て、テンション上げたってことですね。
灰根(吃音ラボ編集部)
色んな夢があったんですもんね。「旗をあげる」って。おっしゃっていたとおり本当に気合いを入れていたんだなあと。
最後に、見ている方に何かメッセージがあればよろしくおねがいいたします。
安藤
まず気合いですね。あとはね、想定して練習することですね。
場を想定して。発声訓練は単にやってもダメなんで、その場を想定して訓練することですね。それが大切ですよね。
灰根(吃音ラボ編集部)
本日はありがとうございました!
安藤
ありがとうございました!
撮影後記
日暮里例会でお会いした安藤さん。インタビューの協力者を探していることを例会内のスピーチで言ってみたところ、安藤さんの方から協力しますと言ってくれました。
例会でお会いした際の安藤さんの印象はとても堂々と意見を言う方だったので、今回インタビューをしてみて大変驚きました。子どもの頃の安藤さんは本当に内気で人見知りでまともに人と話せなかったそうです。とても信じられませんでした。
そんな安藤さんが気合いを入れて「意地でも治す」と色々な方法を片っ端から試して人と話す場数を踏み、自分自身を変えていったこと。同じ吃音者として、安藤さんのそうした姿勢は見習うべき点が多くあるんじゃないかと思いました。
勇気を出して、「ダメで元々、とりあえずやってみる」。そうすることで、何か自分のことを変えられるかもしれません。

取材・撮影・編集=灰根